トランプ大統領が再び世界を騒がせています。大統領復帰後、大胆な改革を次々と打ち出し、その予測不可能な政策は多くの経済学者や政治アナリストを驚かせています。
中でも、世界経済に最も大きな影響を及ぼしているのが「トランプ関税」です。これまでアメリカは、中国やロシアなどのイデオロギー上の対立国を主な標的としてきましたが、今回はカナダやメキシコといった同盟国にも関税が適用される異例の展開となっています。
このトランプ関税が世界経済や貿易にどのような影響を及ぼすのか、また、米ドルやを基軸とする国際為替市場への影響はどうかなるのか、本記事では、歴史的な視点を交えながら、トランプ関税と為替市場への影響を分析・予測します。
トランプ関税とは?アメリカの関税引き上げの具体的な内容
トランプ関税の基本概念は、「相互関税(Reciprocal Tariff)」です。これは対等な負担を求める政策であり、アメリカの貿易赤字を拡大させる国、アメリカの技術を過度に利用する国、またはアメリカの保護を受けながら対等な経済関係を築いていない国に対し、一律に関税を課すというものです。
そのため、バイデン政権時代の「米中対立」「米露対立」とは異なり、トランプ政権の関税政策はより包括的なものとなっています。実際に、カナダのようなアメリカの長年の同盟国にも適用されようとしています。
- 対象国が広範囲:中国やロシアだけでなく、カナダやメキシコなどの同盟国にも適用
- 関税率の高さ:鉄鋼・アルミ製品に25%、半導体には100%の関税
- 貿易赤字の削減が目的:アメリカの貿易不均衡を是正する狙い
アメリカの関税政策:鉄鋼から半導体まで広がる影響
現在、トランプ氏は全世界からアメリカに輸入される鉄鋼・アルミ製品に対し、一律25%の関税を課していますが。さらに以下のような新たな関税措置も発表しています。
- メキシコ:全商品に25%
(2月4日施行予定 → 協議の結果30日間延期) - カナダ:エネルギー関連に10%、その他の輸入品に25%
(2月3日施行予定 → 協議の結果30日間延期) - 欧州:自動車関税を現在の2.5%から10%に引き上げ
- 台湾:半導体に100%の関税
(2月18日施行予定と報道) - インド・BRICS諸国:ドル決済をやめた場合、鉄鋼・アルミ製品に対し25%の関税を課すと警告
このような関税対象を見れば、トランプ氏が特定の国を優遇せず、幅広く関税政策を実施していることが分かります。アメリカ寄りの立場であろうと反米であろうと、関税の対象となる可能性があるのです。
トランプ関税と為替市場|アメリカの関税政策が各国通貨に与える影響
トランプ関税の最も直接的な影響は、米ドルの上昇です。
トランプ関税の発表後、米国では、物価上昇と強いインフレリスクが懸念され、一方で、関税を課された国々は、対米貿易黒字の縮小によって通貨安が進みやすい状況にあります。
ただし関税の影響は短期と長期で異なるため、それぞれ分けて考える必要があります。以下、各国の為替への影響を詳しく見ていきましょう。
トランプ関税がユーロ(EUR)に与える影響
短期的な影響:
市場では、2025年のユーロの上昇は限定的と見られています。ユーロ圏の景気は依然として低迷しており、トランプ氏がEUへの追加関税を発表していないものの、「関税を引き上げる」と繰り返し警告しているため、市場の不安は続いています。
長期的な影響:
しかし、ユーロにはいくつかの強みもあります。第一に、アメリカよりも早く利下げを実施しており、金利政策のサイクルがほぼ終了しているため、これ以上アメリカとの差が拡大する可能性は低いと考えられます。また、多くのアナリストは、現在の米ドル高は一時的な市場の過剰反応であり、行き過ぎた水準にあると指摘しています。
このため、2025年後半にはユーロの回復が期待されており、フランスの投資銀行「アムンディ」はユーロが1.16ドルまで上昇すると予測。最も悲観的なドイツ銀行でさえ、2025年末には最低でも1.02ドルを維持すると見込んでいます。このことから、2025年はユーロのロング(買い持ち)戦略が有効と考えられます。
トランプ関税がメキシコ・ペソ(MXN)に与える影響
短期的な影響:
メキシコ政府は、2025年の輸出総額が前年比12%減少すると予測しています。また、2024年の主要な貿易黒字は原油輸出によるものでしたが、2025年には原油価格の下落が見込まれ、先行き不透明感が強まっています。
さらに、メキシコ政府は2025年度の財政赤字をGDP比3.9%以内に抑える目標を掲げていますが、達成は困難と見られています。この影響で、信用格付けの引き下げリスクが高まり、メキシコ財務省は2025年の為替見通しを下方修正しました。
現在のメキシコ・ペソ/米ドルのレートは20.66ペソ(2025年2月11日現在)です。当初はFRBの利下げによってペソ高が進み、18.7ペソまで上昇すると見られていましたが、最新の予測では19.5~21.0ペソのレンジで推移すると考えられています。
長期的な影響:
関税の影響で米墨間の貿易量は減少する可能性が高いです。現在のメキシコ経済はアメリカとの貿易に大きく依存しており、アメリカが主要な収益源となっています。そのため、貿易額の減少はメキシコ財政に深刻な影響を与えるでしょう。このことから、長期的にはメキシコ・ペソは下落基調が続くと予測されています。
トランプ関税がカナダドル(CAD)に与える影響
短期的な影響:
アメリカ政府がカナダへの関税を発表した直後、カナダドルは急落しました。関税適用は一時保留されたものの、市場の不安心理が広がり、カナダドルは対米ドルで1.47まで下落し、2003年以来の最安値を記録しました。
現在は1.43まで反発していますが、多くのアナリストはさらなる下落の可能性が高いと見ています。そのため、2025年のカナダドル投資戦略としては「反発時に売り(ショート)」が有効と考えられます。
長期的な影響:
トランプ氏はFOXニュースのインタビューで、「カナダをアメリカの51番目の州にすることを本気で考えている」と発言しました。また、カナダのトルドー首相も、トランプ氏との会談でこの話題が議論されたことを認めています。
もちろん、カナダがアメリカに併合される可能性は極めて低いですが、香港と中国のような特別行政区的な経済関係を築く可能性はあります。これにより、貿易や人的交流の自由度が増し、カナダ政府にとっては防衛費削減のメリットも生まれます。そのため、長期的にはカナダドルにとってプラス要因となる可能性が高いと考えられます。
トランプ関税が人民元(CNY)に与える影響
短期的な影響:
トランプ氏による中国への追加関税発表は、短期的に人民元安を引き起こす要因となる可能性があります。特に、中国経済にとって輸出産業は重要であり、関税の引き上げが実施されれば、輸出競争力の低下が懸念されます。また、関税によるコスト増加は貿易収支に影響を与え、通常は通貨安要因となります。このため、市場は一時的に人民元安を織り込む動きを見せる可能性が高いでしょう。
ただし、今回のトランプ関税は中国だけでなく、多くの国を対象としているため、中国の輸出競争力が相対的に損なわれにくいという側面もあります。短期的な混乱が収束すれば、人民元は一定の安定を取り戻すと見られています。
長期的な影響:
中国経済は、2024年第4四半期から政府の大規模な景気刺激策により回復傾向を示しています。特に輸出が回復しており、2025年はトランプ関税の影響を逆手に取り、新たな貿易市場を開拓する機会となる可能性が高いです。
このため、2025年の人民元は対米ドルで7.1まで上昇する可能性があり、現在の7.31と比較して約3%の上昇余地があると見られています。外為投資家にとっては、押し目買いの好機と考えられます。
トランプ関税がインドルピー(INR)およびBRICS諸国の通貨に与える影響
短期的な影響:
過去8年間、インドは「CHINA+1」戦略の中心的な受け皿となり、多くの外国資本を呼び込んできました。しかし、トランプ関税は世界全体に影響を及ぼすため、これまで優遇されていた国々にも負担がかかっています。また、この8年間でインド株が急騰し、中国株が低迷していたことから、投資家の間で「中国の相対的な投資魅力」が再評価され、一部の資本がインドから中国へ流出していると見られています。
この影響で、インドルピーはさらなる下落圧力を受けており、市場ではBRICS諸国の通貨全体が軟調に推移するとの見方が強まっています。さらに、インド準備銀行(RBI)のサンジャイ・マルホトラ総裁は「市場の効率性を損なうことなく安定性を維持する」との方針を示し、為替の過度な変動を抑制する姿勢を見せています。一方で、金融政策は国内経済を優先し、景気減速を考慮した柔軟な対応を取る可能性も指摘されており、2025年のインドルピーおよびBRICS諸国の通貨は引き続き軟調な推移が予想されます。
長期的な影響:
一方で、トランプ政権の貿易戦争の主なターゲットはインドやBRICS諸国ではなく、アメリカの関税政策の目的の一つは、これらの国々がドル以外の通貨で貿易決済を行うことを防ぐことにあります。
そのため、もしアメリカが広範な関税を導入すれば、インドはむしろ新たな貿易機会を得る可能性が高いです。短期的にはルピー安が懸念されるものの、長期的には上昇する可能性も十分にあるでしょう。
日本円(JPY)への影響は? トランプ関税の影響を受けない円相場の展望
ここまで見てきたように、各国の通貨がトランプ関税の影響を受ける中で、日本は関税の影響を比較的受けないとの見方が示されており、日本円は比較的安定した動きを見せています。
現在、日本国内のインフレは顕著な上昇を見せています。2023年12月の名目賃金の前年比上昇率は4.8%と、1997年以来の最高水準を記録しました。また、アジア各国からの外国資本が日本市場に流入しており、円高要因となっています。
このため、2025年の円相場は上昇しやすい環境にあると考えられます。三井住友銀行の予測によると、2025年末のドル円レートは1ドル=145円まで円高が進む可能性があるとされています。
FXの投資家はトランプ関税にどう対応すべきか
トランプ関税は短期的には米ドル高を促す要因となります。しかし、長期的には米ドルの国際的な流通量が減少すれば、ドルの価値そのものが低下するリスクもあります。ただし、こうした影響が2025年に顕在化する可能性は低いと考えられます。
外為投資家にとって重要なのは、短期的な政策の変化や経済動向を的確に捉えることです。長期的なドルの価値低下を過度に懸念する必要はあまりなく、当面は市場の実際の動きを重視した戦略を立てることが賢明でしょう。
また、投資家が特に警戒すべきなのは、トランプ氏の「朝令暮改」のスタイルです。彼の政策は一貫性に欠け、市場の予測を大きく覆す発言や突然の決定が頻繁に見られます。
市場は冷静に分析する者に味方します。情報に振り回されず、目の前の数字と流れを見極め、最適な判断を下せるかがカギとなるでしょう。トランプ関税の影響は確かに大きいですが、それがチャンスとなるかリスクとなるかは、投資家次第です。