量子コンピュータの登場により、これまでの技術の枠組みが根本的に変わる可能性が指摘されています。そのなかでも今回は「量子コンピュータが暗号資産(仮想通貨)市場へ与える影響」について紹介します。
量子コンピュータが暗号資産に与える影響として、量子コンピュータの圧倒的な計算能力の前に、現在の暗号資産を支える基盤である暗号技術が、その安全性を失ってしまう可能性があります。そうなった際、仮想通貨は資産としての価値を失ってしまうでしょう。
さらに、量子コンピュータが詐欺や不正アクセスを試みる者にとって「新たな道具」となり、個人情報の窃取や資産の搾取に用いる可能性も懸念されます。これは単なる技術的な脅威ではなく、実際の経済的損失につながりかねない現実的な問題です。
しかし、量子コンピュータは同時に、より強固なセキュリティシステムを構築する可能性も秘めています。この革新的な技術は、私たちに課題を突きつけると同時に、新たな解決策を提供する可能性も持ち合わせています。
量子コンピューティングがもたらす影響は複雑で多面的です。以下では、これらの課題と可能性について、より詳しく見ていきましょう。
量子コンピュータとは?その仕組みと可能性
現在のコンピュータと量子コンピュータの仕組みの違い
量子コンピュータは、従来のコンピュータとは全く異なる仕組みで計算を行い、これまで不可能とされてきた計算を圧倒的な速度で解決します。
現在のコンピュータと量子コンピュータの仕組みの違いは、現在のコンピュータが二進法を使って情報を処理しているのに対し、量子コンピュータは「量子論理」という全く異なる仕組みを採用しており、これにより従来のコンピュータでは不可能な計算を圧倒的な速度で実行できるとされています。
ただし、現在の量子コンピュータは実験段階であり、環境の制約から完全な性能を発揮するには至っていません。それでも、従来のスーパーコンピュータと比較して桁違いに速い計算速度を実現しています。
グーグルが量子チップ「ウィロー」を発表
2024年12月、グーグル(Google)は最新の量子チップ「ウィロー(Willow)」を発表しました。この量子チップを搭載した量子コンピュータは、スーパーコンピュータで「10垓年(10の25乗年)」かかる計算を、わずか5分で完了できるとされています。この成果は、量子コンピューティング分野で重要な進展といえるでしょう。
量子コンピュータが引き起こす技術革命
量子コンピュータは、その圧倒的な計算能力をもとに、従来の科学技術の限界を打ち破り、多くの分野で革命をもたらす可能性を秘めています。特に、科学や医療、さらには人類の進化にまで影響を及ぼすことが期待されています。
科学と医療における飛躍的な進化
量子コンピュータの計算能力によって科学と医療が大きく前進すると見込まれています。例えば、新薬の開発では、これまで膨大な試行錯誤が必要でした。このプロセスも、量子コンピュータの活用により飛躍的に短縮される可能性があります。その結果、現在では治療が難しいとされる病気にも対応できるようになるかもしれません。
人類の進化と技術の解放
また、量子コンピュータの力によって、最適な遺伝子を選んで次世代を生み出すことができるようになれば、人類の進化スピードが飛躍的に向上する可能性もあります。現在の科学技術が「ムーアの法則」などの制約に縛られず、アイデアをすぐに形にできる時代が訪れるかもしれません。
世界観を変えるイーロン・マスクの視点
世界一の大富豪であるイーロン・マスクは、未来を正確に予測できない理由について「未来を計算するために必要な時間が、実際に未来が訪れる時間よりも長いためだ」と指摘しています。
たとえば、明日の株式市場を予測するのに10年かかる計算では意味がありません。しかし、量子コンピュータにより、その計算が5分で可能になるなら話は全く異なるものとなるでしょう。
暗号資産を支えるブロックチェーン技術は安全か?
暗号資産を支える「ブロックチェーン」は、その高度な分散性と安全性で知られています。しかし、量子コンピュータの台頭により、その安全性に疑問が投げかけられる局面も出てきました。
ブロックチェーンの仕組みと安全性
ブロックチェーン技術は、全ての取引を分散型ネットワーク上で記録・管理する仕組みを提供し、不正な改ざんを防ぎつつ、取引の正当性を保証しています。この仕組みにより、ネットワーク全体の安全性と正確性が維持されています。
この取引記録を改ざんするためには、ネットワーク全体の計算能力(ハッシュレート)の50%以上を掌握する必要があり、これは、世界中の数千万台のコンピュータを同時に制御するほどのリソースを要するため、現在の技術では現実的に不可能とされています。
ハッシュレートとは、ネットワーク全体の計算能力を指します。暗号資産はこれが世界中に分散されているため、一箇所に集中して攻撃するのは非常に困難です。
量子コンピュータでビットコインをハッキング可能
有識者の研究によれば、約1,500量子ビットの量子コンピュータを用いることで、ショアのアルゴリズムを使用してビットコインの公開鍵から秘密鍵を解読できる可能性が指摘されています。
公開鍵から秘密鍵が解読されたらどうなる?
例えば、ビットコインの取引では、取引の入力部分で公開鍵が明らかになります。量子コンピュータを悪用するハッカーは、この公開鍵から秘密鍵を推測し、ターゲットのウォレットにアクセスすることが可能になります。
この秘密鍵を使って不正なトランザクションを作成し、自身のウォレットにビットコインを送金します。さらに、秘密鍵によって署名されたこの取引は、ブロックチェーンネットワーク上で正当なものとして認識され、承認されてしまいます。その結果、本来送られるべき相手ではなく、ハッカーのウォレットにビットコインが移動してしまうのです。
ビットコインのハッキングに到達するにはまだ時間がかかる
とはいえ、量子コンピュータが暗号資産の暗号化技術を現実的に突破するには、まだ時間がかかると考えられています。
例えば、グーグルが発表した最新の量子チップ「ウィロー」に関しても、グーグルの元シニアプロダクトマネージャーであるケビン・ローズ氏は、12月9日のX投稿で、「ビットコインの暗号化を24時間で破るには、約1300万量子ビットを持つ量子コンピューターが必要だ、グーグルのウィローチップは105量子ビットを含んでいるに過ぎない」と述べています。
また、暗号技術者でありビットコインのProof of Workアルゴリズムの開発者でもあるアダム・バック氏も同様の意見を述べています。バック氏は、量子コンピュータがビットコインを脅かすには、技術的に何桁ものブレイクスルーが必要であり、その実現には約50年かかると予想しています。
従来型金融システムの方が危険?
量子コンピュータの進化によって暗号資産への脅威が指摘される一方で、暗号技術も進化を続けています。特に、急成長する暗号資産市場では、多くの企業が安全性向上のために巨額の資金を投入し、暗号技術の堅牢化が進んでいます。
現在の暗号資産の仕組みは、計算難易度をさらに引き上げる高度な技術を採用しています。そのため、仮に量子コンピュータを使ったハッカーが暗号通貨ウォレットを解読できるような事態になれば、それは暗号資産だけの問題に留まりません。クレジットカードのセキュリティが完全に崩壊し、オンラインバンキングも安全性を失う事態が想定されます。
暗号資産の強みは、取引データがネットワーク上のすべての「ノード」に分散保存される「分散型システム」にあります。一方、従来の金融機関ではデータが一箇所に集中管理される仕組みが一般的です。そのため、暗号資産のシステムを攻撃するには膨大な労力が必要となる一方で、従来型の金融システムはその構造上、比較的容易に狙われやすいと言えます。
結論として、ハッキングのリスクが高いのは、実は暗号資産よりも従来型の金融システムと言えるでしょう。
詐欺行為を未然に防ぐ量子コンピュータ技術
一方で、量子コンピュータを活用して詐欺行為を未然に防ぐ技術も期待されています。
例えば、不正な取引を即座に検出し、正当性を判断する仕組みが構築できれば、本人以外による取引は自動的にブロックされるようになります。このような技術が実現できれば、暗号通貨のハッキング行為への対処法となるでしょう。
さらに、量子計算の力を活用することで、複雑な取引ネットワークを解析し、不正な資金の流れを追跡することも可能になります。これにより、詐欺グループの匿名性を剥がし、犯罪行為を根本から防ぐ仕組みの実現が期待されています。
こうした技術は、暗号資産市場全体の透明性と安全性を向上させ、より信頼できる環境を整備する鍵となるはずです。
投資としての量子コンピュータ:冷静な判断が鍵
量子コンピュータという新技術は、投資の新たな機会を生み出す一方で、慎重な判断が求められる分野でもあります。過去の技術トレンドを参考にしながら、今後の進化と普及を見極める姿勢が重要です。
新技術投資のリスクとチャンス
新技術として過去に話題となったNFTや小規模な暗号資産の中には、期待を裏切る結果に終わったものも少なくありません。一方で「AI」のように普遍的な価値を提供し、社会に定着した技術もあります。この違いは、単なる流行と持続的な価値を見極める事の重要性を示していると言えるでしょう。
現時点で、量子コンピュータの技術がどの段階にあるのかは明確ではありません。特に、「量子コンピュータ」をうたった投資案件の中には、実態のない詐欺的なものも多いと考えられます。
こうした新技術への投資リスクを避けるためには、技術や市場が成熟し、実際に普及が進んだ段階で投資を検討するのが賢明です。
例えば、「ChatGPT」のように、登場後わずか1か月で1億人以上が利用するという明確な普及の兆しが見えた場合、そのタイミングで参入を検討するのも一つの選択肢といえます。
焦らず冷静に状況を見極めることで、大きなリスクを避けつつ、利益を狙える可能性が広がるでしょう。